投稿日: 2017年6月7日
投稿者: kuromai
2015年4月3日にオープンした「スロウな本屋」
主に絵本や、暮らしに関する本を、古民家を改装して作ったお店で販売しています。本の販売の他に、お店にある本の内容に関連したワークショップや、子どもが1カ月限定で「ふくてんちょー」となって本を紹介する取り組みをされています。
本好きの私としては、一風変わった本屋さんということで、前から気になってはいたのですが、今回、大学で講演会があったのをきっかけに、インタビューさせていただくことにしました。
店主の小倉みゆきさんは、IT企業や、洋書店、クレヨンハウス(絵本・おもちゃ・雑貨などを取り扱う会社)や、大型書店などで、様々なお仕事をされてきたようです。
小倉さんの、絵本についてのお話を聞きました。
店主の小倉みゆきさん (撮影:ieto.me)
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絵本屋さんの経営は難しい?
黒田(以下、黒) 今日はお時間頂きありがとうございます。素敵な店内ですね~
小倉さん(以下、小) ありがとうございます。
黒 ちょっと失礼かもしれないですけど、素朴な疑問をぶつけてもいいですか?
小 どうぞ。笑
黒 絵本って、子どもだけが読むものですよね。絵本をメインにして取り扱うお店としては、需要が小さかったりして経営が難しくはないのですか?
小 絵本は、子どもだけのものではないです。大人の読む本でもあります。 また、子どもが読む絵本でも、自分の子どものために買いに来る人もいるし、おじいちゃんやおばあちゃんが孫のために買いに来ることや、お友達の出産祝いに買いに来る人もいて、案外、需要はあると私は思っています。
黒 なるほど。その、需要の大きさというのは、大型書店員だった時代に気づかれたんですか?
小 そうです。児童書コーナーを担当しているときに、「絵本を子どもに読んでやりたい、贈り物として選びたいのに、多すぎて選べない」という人がたくさんいることに気づいたんです。 今は、より丁寧に本選びをサポートできることが嬉しいです。
ここに並んでいるものはたぶん大型書店に行けばあるものです。でも、大型書店ではいろんなコーナーに分かれてしまっているから探しきれない。ここだったら、コンパクトであるからこそ探しやすい。だから、この店を気に入って足を運んでくださるお客さんがいらっしゃるんだと思います。
黒 前にしていたお仕事で気づいたことが、今のお店作りに繋がったんですね。
新しいお客さんを引き込むためにしていらっしゃることはあるんですか?
小 フェイスブックやホームページで、本が入荷したことや、その本に関する映画が上映されたことなどを、なるべくこまめに配信していると、思わぬところで思わぬ人が反応してくださることがあります。その反応が、人から人へ繋がっていく。お友達のお友達とか、その人がSNSに載せてくださって、また別の人が来てくださったりして。
黒 すごい。どんどん伝わっていって、お客さんが増えていくんですね。
大人のための絵本
黒 さきほど、「絵本は子どもだけでなく、大人のものでもある」とおっしゃいましたが、絵本のどういう点が大人のものと言えるのですか?
小 大人って、特に社会人とかになると忙しいじゃないですか。 本を丸々一冊読む時間はあまりないかもしれないけれど、絵本だと数分で読めてしまうから、私は忙しい大人には絵本をお勧めしたいと思っています。 絵本って、文章が最小限でしょう? 本当に大事なエッセンスだけがある。だから、響くんじゃないかと思う。 子どものころは、ただかわいい、面白いで読んできただけのものかもしれないけど、大人になって読み返すと、シンプルだからこそ、本質的なものが見えやすいんじゃないかと思います。
黒 小倉さん自身、この絵本を読んでこんな影響を受けた!というようなことはありますか?
小 そうねえ…、いろいろあるけど、例えばこれ。
黒 『最初の質問』ですか。
小 私がすごく印象に残ったのは、この、「今日、あなたは空を見上げましたか」というこの質問です。忙しすぎて、空すら見ていなかったとかって人って多いと思うけれど、この絵本はそれを気づかせてくれる。他にも色々質問があって、どの質問が心に突き刺さるかは、人やタイミングにもよりますけどね。
黒 確かに、こんな質問をぱっとされたら、いつも忙しく働いている大人の方は、ドキッとするかもしれないですね。
小 この『ケチャップマン』という絵本を読んだ男性のサラリーマンは、「この主人公は僕です!」と言ってたことがありましたね。
黒 へえ~。一通り読ませてもらいましたが、面白いですね!
小 でしょう? 子どもは、絵だけを見て面白がるけれど、大人は自分を投影してしまう。この本とかは、大人じゃないと楽しめない本だと思う。
「子ども」にスポットを当てる理由
黒 「今月のふくてんちょー」という、小学生の子どもが、一か月間副店長を務めて、自分のお勧めしたい岩波少年文庫の本を紹介する取り組みなど、子どもに視点を当てたイベントを多くなさっていますよね。
小 クレヨンハウスという会社にいた時、私は、3階で、大人向けの本の売り場の担当をしていました。そのお店は、2階がおもちゃ売り場、1階が絵本の売り場だったので、子どもたちにとっては、1階と2階がすごく魅力的なわけで、お母さんが3階に来ても退屈だから、早く帰りたがる。
黒 せっかく来てくれたお客さんなのに、みすみす帰すのはもったいない!笑
小 そうなんです。そこで、おもちゃ売り場の先輩から木の椅子と机をもらって「お絵かきしていいよコーナー」を作ったんです。 そしたら、子どもはそこでルンルンお絵かきしてくれるし、お母さんはゆっくりお買い物できるようになりました。描いてくれた絵を売り場に飾ったりもして。ちょっと工夫をすると、大人も子どももハッピーになるし、ハッピーになってくれたお客さんを見る私たちもハッピーになる。その会社で働いていた時、そういう発見がありました。
それが、今、私が子どもに視点を当てた取り組みをしているきっかけなんだと思います。
黒 そうなんですね~。この取材をする前にクレヨンハウスについて調べてみたのですが、「スロウな本屋」の雰囲気づくりや本のセレクトに、クレヨンハウスという会社の理念や考えが、大きく影響していることがわかりました。
では最後に、お客さんへメッセージをお願いします。
小 私は、ただ本が売りたいわけじゃなくて、それがきっかけで、なにかその人に「始めたい」とか「変わろう」って思ってもらいたい、という気持ちを持って店に立っています。 それは、料理を頑張ろう、でもいいし、ちょっと絵本読んでみよう、でもいい。 「スロウな本屋」からあなたへの一冊の本が、その何かのきっかけになったらいいなと思っています。
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いかがでしたか?
普段はあまり読まない人が多い絵本ですが、いつも行く本屋さんや図書館の絵本コーナーを、一度覗いてみるのもいいかもしれません。あなたなりの驚きや発見が、きっと見つかるはずです。
そして、街の個人経営している本屋さんに行ってみましょう。大型書店ではなく、店主のセンスあるセレクトだからこそ、自分のほしい本が見つかりやすいはずです。お店の人に話しかけて、あなたを待っている、まだ出会ったことのない本を探してみてはいかがですか?
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