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〈一人一人の「なんとかしたい!」をカタチにしよう ~岡山市民コミュニティ財団の挑戦~〉

投稿日: 2016年8月3日
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みなさんには、こんなことが当たり前の世の中になったらいいのになあと思うことはありませんか?

例えば、明日のごはんに困る人がいない社会、大量の廃棄物がない社会、農地の後継者に困らない社会…

人によって様々だと思いますが、そのような社会に変えるために、自分の仕事とは別に活動を始めることは難しいという現実があります。

そこで、例えば寄付をして、そのために活動しているNPOなどの団体を応援するという方法を取るのはどうでしょう?

自分一人では実現が難しいことでも、同じような思いを持った人を応援することで、目指す社会が当たり前になるまでの時間がぐっと縮まるかもしれません。

 

でも、実際にいざ寄付をするとなると、どんな団体を応援したらいいのかよくわからないと思います。

「みんなでつくる財団おかやま」(以下、みんつく)は、そのような一人一人の思いに耳を傾けて、どの団体に投資をすれば最も早く実現できるかを考え、世の中のお金の通りを良くするために活動する公益財団法人です。

このような団体は、一般にコミュニティ財団と呼ばれています。主な活動内容としては、地域の住民から寄付金を集め、地域の問題解決に取り組んでいるNPO団体の応援をすることです。このような団体があることで、住民一人一人がよりよい地域づくりに参加することができるのです。

 

そんなみんつくの取り組みは主に三つあります。「冠基金事業」、「割り勘」、そして「円卓会議」です。

一つずつ簡単に説明しましょう。「冠基金事業」は、こんな未来になったらいいなあとなんとなく思っている人からお金を託され(基金を作る)、みんつくがその基金を使う助成事業を提案し、その事業に実際に取り組む団体を募集するというものです。

二つ目の「割り勘」は、応募のあったいくつかの団体の取り組み(みんつくによる審査あり)からどれか一つを選び、一般市民が寄付をする仕組みです。

そして、三つ目「円卓会議」は地域で活動する団体や活動のことや課題について様々な人で考え、知恵や情報を集める取り組みです。お金だけではない資源の循環を促すことを目的としています。

 

「割り勘」の具体的な事例として、「橋守(はしもり)」という事業を挙げたいと思います。

全国で一番、橋が多い岡山県。高度経済成長から50年が経過し、近年、全国的に橋をはじめとするインフラの老朽化が目立っていますが、自治体の対応が追いついていないという状況があります。インフラの整備は行政がすることだという意見はもっともですが、インフラに不具合が生じて一番困るのは、他の誰でもない私たち市民です。

そこで立ち上がったのは、退職した建設技術者さんで構成する「NPO法人 TEC.ECO 再生機構」です。彼らは簡単なチェックリストを使って橋を点検し、排水溝のつまりを除いたり、手に負えない異常を見つけた際は自治体に情報提供を行います。さらに、橋などのインフラに興味を持ってもらうため、また、このような「橋守サポーター」を養成するべく、市民に対して講座の開講を始めました。そうすると、工業高校から土木の授業でこの取り組みをやりたい、という話が上がり、実際に橋の点検、行政への情報提供を行うまでに広がりました。

せっかく芽生えた良い取り組みがずっと続くには、住民、行政、企業を巻き込んで取り組みを「仕組み化」することが必要です。みんつくは、このようなNPOの始めた取り組みを「割り勘」を使ってお金の面で支え、報告会を開くことで情報、人財の面で支え、さらには市民や行政、企業への意識啓発にも一役買っているのです。

 

そんなみんつくの創始者である石田篤史さんは、意外や意外、設立当初は「コミュニティ財団」という言葉など知らなかったと言います。しかし、市民がもっといきいきと生活するには、企業や行政以外にお金や情報の風通しをよくする機関が必要だとは考えておられたそうです。
石田さん写真

 

「一人一人に自分の思いを実現する力とチャンスがある」と石田さんは言います。

コミュニティ財団というと、NPOの支援が主な活動内容と思われがちですが、石田さんはNPO支援が先ではなくて、一人一人にまず焦点を当てます。社会は一人一人の延長線上にあるので、住民の思いを早くカタチにするには、「社会のために」ではなく、「この人のために」と思って行動する方が理に適っています。住民一人一人が自分たちの暮らしやすい地域を創るためには、彼らの投資をどのように回したらよいかを先に考えるのです。

 

 

                                          石田篤史さん Jカフェにて

今では、岡山でみんつくと言えば、知っている人は知っている団体ですが、やっぱり設立当初は非難もあったそうです。「ニコニコしているけど、新手の詐欺じゃないかと疑われもしたし。」と石田さんは振り返ります。「でも、説明すべき人には時間をかけて説明しました。さらに、僕をよく知らなくて攻撃してくる人に攻撃をする時間も与えないくらいのスピードで公益財団法人を創りました」

まだ岡山にコミュニティ財団がなかったとき、活動に協力してくれそうな方々にコミュニティ財団の必要性を言った後に、以下のように言って説得されたそうです。「今、私は35歳で、定年まで約30年働くでしょう。では、30年後を考えてみてください。欧米ではコミュニティ財団は100年も前からありますし、近年日本でも増えてきていますからおそらくあるでしょう。だったら、30年後にはあるものを10年後に始めるより、今から始めた方が私はいいと思うんです。私は失敗するかもしれませんが、私がまっすぐ進んでいる限りは私の後に続いてくれる人が必ず前に進めてくれるでしょう」

実は、石田さんは最初、代表になる予定はなく、設立することが自分の役目だと思っていたそうです。「石田篤史のみんつくではなく、自分がいなくなっても回るような岡山に根付いた団体にしたい」

 

そんな思いを抱きながら、みんつくの代表として早4年。

 

お金に縛られるのではなく、お金をツールとして使うことが大切です。

お金だけが必要ならば、世の中にある補助金や銀行の融資などでことが足りることは多々あるかもしれません。

だからみんつくは、相談者から話を聞いて、まずとにかく世の中の仕組みに繋ぐことを考えて、アドバイスします。そして、既存の仕組みでは対応しきれない相談内容であれば、みんつくの利用をお勧めします。または、お金は別の補助金で調達するけれど、仲間を集めには「割り勘」を使ってみるとか提案してみるのです。

お金だけの支援ではない。それが、みんつくの強みです。

お金を融通しているけれど、そこに人の思いや人の存在が乗っていて、それを人から人へ繋いでいるのです。

「自分たちは思いのインフラを整備している」。

石田さんの、みんつくの、そんな静かな情熱がひしひしと伝わってきました。

 

あなたの地域にあるコミュニティ財団。

思いの一つを、ゆだねてみませんか?

 

ライターについて

kuromai
真衣 黒田 くろまい
人の話を聞くのが好きです。このインタビュー記事を読んだ人が、「自分もこの人に会って、何か新しいことを始めたい!」という気持ちになってもらえたら嬉しいです。 農学部なのに、なんで新聞記者になりたいの? とよく聞かれますが。好きなものは好きなので仕方がないです。笑 大学では少林寺拳法部に所属する元気っ子でもあります!笑