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自分の進路はレールの上にはない 新見市地域おこし協力隊 佐伯さんの仕事観

投稿日: 2017年6月1日
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いつから仕事について本気で考えるのでしょう。

 仕事について考えるようになるのは、小さい頃の夢を思い出したとき、高校の進路相談のとき、大学3年生の就職活動解禁日のときなのでしょうか。小さい頃からの夢を持ち続けた人もいれば、大学時代の就職活動で決めた人もいます。仕事についての考え方はさまざまで「仕事とはこのことだ!」とハッキリ答えるのは難しいです。仕事の決め方もきっと同じでしょう。

 

 しかし、大学卒業後すぐに「新見市地域おこし協力隊※」に入った人がいます。それは佐伯佳和さんです。小さい頃から絵を描いたり、物を作ったりすることが好きで、大学のときに伝統的な木工があることを知りました。

 

 一度は「木工職人」の道を進み出そうとしましたが、新見市地域おこし協力隊を選択しました。佐伯さんは決して木工職人を諦めたわけではありません。大学時代にどのような経験を経て、今の仕事を決めていったのかを教えてもらいました。

 

※ 地域おこし協力隊とは・・・

人口減少や高齢化等の進行が著しい地方において、地域外の人材を積極的に受け入れ、地域協力活動を行ってもらい、その定住・定着を図ることで、意欲ある都市住民のニーズに応えながら、地域力の維持・強化を図っていくことを目的とした制度です(引用:総務省)。

 

 

 

<佐伯 佳和さんプロフィール>

愛媛県今治市出身。野山で駆け回って遊び、絵を描いたり物を作ったりすることが好きだった子ども時代。中学校、高校と充実感をもって過ごし、大学へ進学。すると波動の高い人たちの間になじめず内向的になり、堕落した生活を送るように。挫折し周りに迷惑もかけ、ようやく改心したのが3年次。指導者に恵まれ、林業のボランティアや友人を通して現在活動する新見市と縁ができる。木工の職に就く道もあったが、色々な経験がしたいと新見市地域おこし協力隊に応募。現在は同ボランティアへの参画、木工など活動する傍ら、任期終了後の生業づくりを行っている。

 

 

大学3年生のときは焦っていた

 佐伯さんは入学してから学祭実行委員会に入りました。大学にはほとんど行かず、学祭準備とアルバイトばかりしていたと言います。3年生になって、「このままでいいのか・・・まずいな」という気持ちになったと教えてくれました。卒業単位も明らかに足りず、卒業も半年間伸びてしまった・・・正直なところ、中高の部活に比べると、学祭実行員会も馴染めていなかったと語ります。

 

 

“大勢の中で、自分がどう振る舞っていいのかをよく考えていた。

上手く先輩と付き合える奴もおるし、本当に面白い奴もおるし

その中で自分を見たとき、いろいろ劣等感を感じた”

 

 

 それから、佐伯さんは周りにすごい人がいっぱいいて、中高の時よりも自分が認められなかったと思うようになります。「いろいろな先輩の悪い所だけ吸収してしまい、大学にも行かなくなったし、恋愛でもうまくいかなかったし、学業も疎かになってしまったと・・・」。2年生の時にあった飲み会で酔って潰れて暴れたこともあると言います。

 

 関係者には多大な迷惑をかけてしまい、またこの時期は悪いことが他にもたくさん起こったそうです。ロードバイクが好きで、乗っていた時に思いっきり曲がってこけて、腕を折ったという話もありました。佐伯さんは「これじゃいかんよ」と知らせるためにいろいろなことが起こったように思ったと話してくれました。一度痛み目にあって、やっとちゃんと勉強しないといけないなと思って、3年生になってぼちぼち大学へ行くようになったそうです。

 

 

 

レールの上にいたら不幸せになる 

 「いい大学に入って、いい就職先を見つけて就職する」ということは、多くの大学生、高校生が考えることです。そこから外れるのはとても怖いことです。佐伯さんは森林ボランティアや起業塾などに参加するといった経験を経て、多くの人と出会いました。

 

 大学で出会う人ではなく、林業の仕事をしている人、ファイナンシャルプランナーの仕事をしている人などの話を聞くうちに、自分の知らない世界があることを知ります。そして、「なんであんなに怯えていたんだろうか・・・」と感じるようになったと言います。

 

 

“自分の本心の声をよく聞いて進路選択をしていると、その時の自分にとってベストな指導者や協力者、活躍できる場が用意されていっている感じがある。

 

過去の経験も含めて、良いこと悪いこと自分の身の回りに起こることすべて意味があって起こるんだという気持ちで受け入れられるようになってきた。法学部出身なのに林業?木工?と言われるが、今の自分にとってはこの道がベストだと腑に落ちている。 

 

またこの先学んだ分野を活かせられる形と出会えれば、その道にも進むのもいいなと思う。”

 

 

木工から林業・・・そして生業へ

▲杉製の靴箱、試行錯誤しながら完成。これほど大きい靴箱を作ったのは初めて。

 

 林業の世界に飛び込んだ佐伯さんは、小さい頃から絵を描いたり、物をつくったりするのが好きだったようです。3年生の時に「伝統的なもの」に興味を持ったと話します。ネットで調べていると、江戸の指物などの木を使った伝統工芸に出会い、これを機に木工職人になりたいと思うようになったそうです。

 

 しかし、調べていくうちに、日本の山は人の手が入らなくなり、土砂崩れや山の水を貯える力が弱くなってきていると知りました。「こっちのほうが自分のやるべきことなんじゃないかな」と思い、林業の世界に飛び込んでみたと言います。

 

 この時代に仕事を考えるとき、「自分のやりたいこと」と「やるべきこと」を組み合わせて行動することが、気持ちを持続させるためには大切なことのように思います。

 

 

最後に、佐伯さんのこの先の展望について教えてもらいました。

 

 

“新見市の花木という地区に定住することが決まった。地域の人たちや恩師、両親、プロの世界の人達に厳しくも愛情もって導かれている。そうした人たちと関わりながらこの地でワクワクしながら生きていきたいと心から思うようになった。

 

身近にある木で、温かさ(エネルギー)が得られるところに関心があった中、地域おこしを目的に、全身全霊を製品の性能向上に掛けてこられた薪ストーブ開発者の方とのご縁をもらい、薪ストーブと薪の生産販売という道が見えてきた。木工品の製作販売も続けていきたい。今年1年間はこうした仕事の基盤を作る期間となる予定。自分の道を確立した素晴らしい人たちのなかで、たくさん失敗しその都度自分の甘さを痛感しながらも、確実に前に進んでいる実感があって幸せ。”

 

 

レールの上では決して生まれなかった価値がここにあるのではないでしょうか。

自分のやりたいこと、やるべきことを組み合わせる柔軟な発想が、

新しい職人の形を作っていく予感がします。

 

自分が何をしたいのかを考えることは早いほどいいです。

自分の知らない世界はたくさんあり、それを知る機会もたくさんあります。

この機会に、一度レールからそーっと外れてみてはどうでしょう。

 

違うなーと思えば戻ればいいのです。

 

 

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ライターについて

こうき
こうき
1992年岡山市生まれ。岡山市在住。2014年に関西国際大学人間科学部卒業。 2016年にアプトという団体を立ち上げ、対話を通じて「地球にやさしく遊びがある未来」を実現することをミッションに、協力・協働・共創が生まれる場づくりを行っている。